シナリオライター月雪 華也

女性向け恋愛ショートストーリー

 はあ、最近なんだか部活がしんどいなあ。
 授業が終わった時には良く晴れていた太陽もどっぷりと暮れ始めている、黄昏時。
 部活を終えて部室を出ると、見慣れた学校の風景はすっかり人気の無い荒漠した光景が広がっていた。
 はあ。
 再びため息が漏れる。
「彼氏欲しいなぁ」
 私だって部活ばかりしているが、彼氏が欲しくない訳じゃ無い。それに、惚れている相手がいない……訳でも無い。
 すっかり人気の無くなった校門に、制服姿の男の子が一人で立っていた。
 学校の前の通りは国道だった。あまりに車が頻繁に通る物だから、学校への苦情は多いらしい。通る車はほとんどが県外のナンバープレートだ。
 行き交う車の明かりに男の子は照らされていた。横を車が通ることなど全く気にならない様子で、右手に握られたスマホをいじっている。誰かを待っているようだった。耳にはイヤホンを挿していて、何か曲を聴いているようだ。
 私は立ち止まって、その姿を呆然と見ていた。
 目の前の現実を否定しようとしても、否定など出来るはずも無い。私は初恋の相手が誰かを……恐らく誰か他の女の子を待っているのを遠目に見ることしか出来なかった。
「誰を待っているんだろう……」
 そして、どんな曲を聞いてるんだろう……。
 私って彼のこと何にも知らないんだなあ。
 春に入ったとテレビでは連呼されているが、こうしてじっとしていると、風は思いの外冷たく、涙が出そうになった。彼のことを全て知っている人がいる。心を通じ合わせている人がいる。そう思うだけで、心が締め付けられるようになった。
 あのイヤホンから流れる音楽が私の気持ちだったら良いのに。
 どうしても夢のようなことを考えてしまう。でも、彼に私の思いが届く、そう思うと、何をしても良いとさえ私には思えた。
「せんぱーい、ちょっと遅れちゃいました」
 少し息を切らしたような声が響いた。鈴を転がしたような綺麗な声だった。
「え、ええ、張り切って準備し過ぎちゃいまして……」
 私はその声の主を直視することが出来ず、物陰に隠れてしまった。
「はいっ、帰りましょう」
 聞こえる声はとても綺麗で、彼にはふさわしく、私にはまるで勝てないような気がした。
「ああ、早く帰ろう。寒いな、手でもつなごうか」
「はいっ」
 段々と小さくなる声。めっきり聞こえなくなって、更にしばらくしてから私は物陰から這い出した。
 そこには人一人いない校門があるだけだった。門柱にもたれる彼はもうそこにはいない。
 でも、私はなんだか吹っ切れた気分になっていた。
「よしっ、明日から頑張るぞっ」
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